Webディレクターは、未経験からでもなれます。私の職場に、実際にそういう人が2人います。
ただし「何もない状態からなれる」という意味ではありません。コーディングができなくても務まりますが、その代わりに要るものがあります。私はディレクターではなく、その下で動くコーダーです。だからここでは、一緒に働く側から見た話を書きます。
私の会社では、ライターとデザイナーから就いています
私が所属しているのは、SEOとWeb制作を扱う会社です。常時20以上のサイトの改修や構築、運用が動いています。中身はWordPressが中心です。
ディレクターは1人ではありません。チームの進行を見る人がいて、その上にクライアントと直接やりとりする人がいて、さらに複数のチームを見る人がいます。層になっています。
そして私のチームのディレクターは、ライティングの出身です。その上のディレクターは、デザインの出身です。どちらもコーダーやエンジニアの出身ではありません。
つまりこの職場では、ディレクターになる道はコーディングの側から伸びていません。ライターやデザイナーからそこへ移っています。片方は最近、クライアントと折衝する立場に昇進しました。
未経験からなれるか、という問いへの答えは、私の目の前にあります。なれます。
ディレクターになっている人が持っているもの
では何を持っているのか。近くで見ていて分かったのは、技術がゼロなのではなく、必要な技術の種類が違うということでした。
| できること | なぜ必要か |
|---|---|
| GitとGitHubが使える | 制作物の受け渡しと変更履歴の確認がここで行われるため |
| Google Workspaceに慣れている | 資料・日程・共有・記録がすべてここに集まるため。フルリモートでは特に大きい |
| 報告・連絡・相談ができる | クライアントと上司とメンバーの間に立つ役割のため |
| 臨機応変に動ける | 受ける仕事の内容が案件ごとに変わるため |
コードは書けなくても、GitとGitHubは使えています。Google Workspaceにも慣れていて、それで仕事が回っています。フルリモートの現場では、この2つができるかどうかがかなり効きます。
Google Workspaceについては、実務で必須! Google Workspaceに慣れておく大切さに詳しく書きました。
そして、適当な人ではありません。責任感があって、報告と相談がきちんとできます。クライアントとも代表ともやりとりする立場なので、そこが崩れると成り立ちません。
技術が分からないと、現場で何が起きるか
ここからは正直な話です。良いことばかりではありません。
コーディングの知識がないディレクターの下にいると、技術的なアドバイスはもらえません。それは仕方がないので、諦めています。問題はその先にあります。
仕事の進め方で確認したいことが出てきたときに、聞いても答えが返ってきません。返ってくるのは「上の人に確認してきます」です。その間、私の作業は止まります。
もっと困るのは、その前の段階です。ディレクターがコーディングやWeb制作やSEOに詳しくないと、クライアントから必要な情報を聞き出せていないことがあります。こちらが仕様を確認しようとすると、「次回のクライアントとのミーティングで確認しておきます」と言われる。次のミーティングまで待つことになります。
そうなると、最初から聞かない方が早い、という結論になります。分からない部分は自分で判断して、とりあえず作って提出する。違っていたら返ってくるだろう、という進め方です。
手戻りを前提にした進め方になる。これが一番の損失だと思っています。
ディレクターに技術の理解が必要な理由は、部下にアドバイスするためではありません。クライアントから必要な情報を引き出すためです。ここが抜けると、現場は推測で作ることになります。
「お問い合わせ」の先は、どんな画面?
「お問い合わせボタンを付けてください」。同じ依頼でも、思い浮かべる画面は違うことがあります。2つのボタンを押して比べてみてください。
案A
サンプル工務店
メール作成画面が開く想定
新しいメール(見本)
- 宛先
- info@example.com
- 件名
- お問い合わせ
利用者が自分のメールアプリで書く方法です。
案B
サンプル工務店
入力フォームが開く想定
お問い合わせフォーム(見本)
- お名前
- 例:山田 太郎
- メールアドレス
- 例:user@example.com
- ご相談内容
- リフォームについて相談したいです。
サイトに用意した欄へ入力してもらう方法です。
先に、この3つを聞いておくと話が具体的になります。
- ボタンを押した後、どんな画面に進みますか?
- 問い合わせる人に、何を伝えてもらいますか?
- 届いたお問い合わせは、誰が確認しますか?
架空の依頼を使った説明用の見本です。フォームへの入力、メールアプリの起動、送信は行いません。もう一度ボタンを押すと閉じます。
それでもチームが回っている理由
では現場が崩壊しているかというと、そうではありません。回っています。理由が2つあります。
1つは、聞く相手を変えていることです。同じチームの中で答えが出ないときは、チームの枠を越えて、コーダーの古株の人に聞きに行きます。プログラミングのことなら詳しい人に直接Google Meetをつないで相談します。ディレクターを通さずに、必要な人に直接あたる。
もう1つは、人柄です。私のチームのディレクターは、怒りません。謙虚で、やる気があって、コミュニケーションが普通に取れます。分からないことを分からないと言える人です。だからこちらも、技術の話が通じないことを責める気になりません。
技術が足りない部分を、別のもので埋めている。それで実際に成立しています。
向いている人、向かない人
近くで見ていて思うのは、この仕事に必要なのは技術より先に、立ち位置に耐えられるかどうかだということです。
ディレクターは、クライアントと上司とチームメンバーの間に立ちます。板挟みになる場所です。クライアントからも上司からもいろいろ言われます。そこでへこまない人でないと続きません。
人とやりとりすること自体にストレスを感じない人。報告と連絡と相談が自然にできる人。案件ごとに条件が変わっても慌てない人。そういう人が向いていると思います。
逆に、黙って自分の作業に集中したい人には向きません。それは悪いことではなく、単に別の職種の話です。私自身はそちら側の人間なので、コーダーをやっています。
未経験から目指すなら、何から手をつけるか
求人サイトでWebディレクターを検索すると、未経験可と書かれた求人も並びます。ただし「未経験可」の意味は会社によって違うので、募集要項の中身を読む必要があります。
そのうえで、先に用意しておくと効くものを挙げます。
| 用意するもの | 理由 |
|---|---|
| Google Workspaceの基本操作 | フルリモートの現場では、ここが仕事の土台になる |
| GitとGitHubの基本 | 制作物のやりとりと履歴の確認に使う。コードが書けなくても操作は必要 |
| Web制作の全体の流れ | クライアントから必要な情報を引き出すために要る。細部の実装まで分かる必要はない |
| ライティングやデザインの経験 | 実際にそこからディレクターになっている人がいる。無関係な経歴ではない |
コーディングを完璧にできる必要はありません。ただ、何がどれくらい大変なのかが分かる程度の理解はあった方がいい。それがないと、クライアントとの打ち合わせで何を確認すべきかが分かりません。
職種の呼び方や、求人票の読み方については、コーダーとマークアップエンジニアの違い|仕事内容と求人の見分け方にまとめています。
未経験からなれるか。なれます。ただし、なった後に現場が困らないかどうかは、別の話です。