サーチコンソールを開いたら、「40代 プログラミング 遅い」という言葉で自分の記事が表示されていました。
検索した人は、答えを知りたかったのだと思います。遅いのか、遅くないのか。ただ、私が気になったのは「遅い」という言葉がくっついていたことでした。それを確かめようとしている時点で、その人はもう迷っている。そして迷いの中身は、たぶん年齢そのものではありません。
この記事では、遅いかどうかではなく、その手前にある「動きたいのに動けない理由」について書きます。
同じことを考えている人は、思っていたより多い
転職サービスのdodaが2025年度上期に発表したレポートによると、同社のエージェントサービスを使って転職した40代の人数は、2019年度上期と比べて約2倍に増えています。これはdodaの利用者に限った数字なので、日本全体がそうだとは言えません。ただ、40代で動く人が以前より珍しくなくなってきたことは伝わってきます。
同じレポートには、40代の転職では転職前後で年収が減る傾向が続いている、とも書かれています。増える人ばかりではない。むしろ下がることの方が多い。それでも人数は倍になっている。この2つが同時に起きているところに、40代という年齢の事情が出ている気がします。
「40代からでは遅いのか」という問いそのものについては、40代未経験からWebコーダーになる3年ロードマップにまとめています。
なぜ、40代なのか
40代でまったく別の仕事に移ろうとする人は、何を考えているのか。自分のことも含めて、掘り下げてみました。
ひとつは、体力です。今の仕事をこのまま続けていけるのか、という不安。20代の頃と同じようには動けなくなっていることを、本人が一番よく分かっています。
もうひとつは、成長が止まっている感覚です。この仕事はもう20年やってきた。あと20年、同じことを続けるのか。毎日やることが同じで、自分が伸びている実感がない。給料も、この先どこまで上がるのかが見えてしまっている。
会社そのものへの不安もあります。この不景気の中で、ここは本当に最後まで勤め上げられる会社なのか。以前なら考えなかったことを、考えるようになる。
そこにYouTubeやSNSが入ってきます。いろんな人が、いろんな職業や資格や新しい働き方を発信しています。副業、IT転職、フリーランス。見ているうちに、自分も何か新しいことをやってみたい、という気持ちが動き出す。
そして、たいていの人が一度は思うはずです。このままの人生でいいのかな、と。このまま同じ仕事を続けて、このまま終わってもいいのかな。他の仕事もしてみたい。
もうひとつ大きいのが、時間の感覚です。50代になったら、残りの時間はもっと少なくなる。それが分かっているから、40代は本当に考えどきになります。
それでも動けないのは、自分だけの問題ではないから
ただ、考えることと動くことの間には、かなりの距離があります。
まず、これまでの経歴を捨てて、1から新しい職種で頑張れるのかという不安。20年かけて積み上げたものが、次の場所ではほとんど評価されないかもしれない。その状態で、また下から始められるか。自信が持てなくて当然だと思います。
次に、収入です。今の収入を数年後に上回れるのか。プログラミング関連の仕事は比較的給料がいいと言われますが、未経験から入って今の収入を超えるまでには、それなりの年数がかかります。その間、家計はどうするのか。
そして一番大きいのが、家族です。20代や30代の転職と決定的に違うのは、失敗したときに巻き込む人がいることです。子供が育つほど、身動きは取れなくなっていく。下手に動いて失敗すれば、自分だけでなく家族全員が不幸になる。
やりたい気持ちと、家族を守る責任。この2つの間で、深く悩んでいる人は多いと思います。
40代の家計に、実際に何が起きているのか
「お金が不安だ」という話は、感覚の問題として片付けられがちです。でも、公的な統計を見ると、40代の家計にはかなりはっきりした構造があります。
総務省が2026年5月に公表した家計調査(貯蓄・負債編)の2025年平均結果です。二人以上の世帯を、世帯主の年齢別に並べたものです。単位は万円です。
| 世帯主の年齢 | 貯蓄 | 負債 | 純貯蓄 | 借金がある世帯の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 40歳未満 | 994 | 1,882 | −888 | 64.3% |
| 40〜49歳 | 1,381 | 1,483 | −102 | 67.0% |
| 50〜59歳 | 1,756 | 743 | +1,013 | 53.7% |
| 60〜69歳 | 2,843 | 234 | +2,609 | 26.5% |
| 70歳以上 | 2,471 | 81 | +2,390 | 10.4% |
| 全体平均 | 2,059 | 675 | +1,384 | 37.5% |
報告書の見出しには、こう書かれています。世帯主が50歳未満の各年齢階級では、負債現在高が貯蓄現在高を上回る、と。
つまり40代は、平均で見ると、貯蓄よりも借金の方が多い世代です。40歳未満では888万円、40代でも102万円、貯蓄より借金が上回っています。プラスに転じるのは50代からです。
さらに踏み込むと、もっとはっきりします。40代は、借金を持っている世帯の割合が67.0%と、全年代でいちばん高い年代です。3世帯のうち2世帯が、何らかの借金を抱えている。その借金を持っている世帯だけを取り出すと、こうなります。
| 世帯主の年齢 | 貯蓄 | 負債 | 純貯蓄 |
|---|---|---|---|
| 40歳未満 | 1,029 | 2,927 | −1,898 |
| 40〜49歳 | 1,304 | 2,212 | −908 |
| 50〜59歳 | 1,376 | 1,384 | −8 |
| 60歳以上 | 2,176 | 853 | +1,323 |
| 全体平均 | 1,474 | 1,802 | −328 |
40代で借金がある世帯は、貯蓄1,304万円に対して負債2,212万円。差し引きすると908万円のマイナスです。50代でもまだ8万円のマイナス。プラスになるのは、60歳を過ぎてからです。
この負債の91.9%は、住宅や土地のためのものでした。つまり家のローンです。
数字はいずれも平均値です。中央値ではないので、すべての世帯がこうだという話ではありません。それでも、40代という年代の輪郭ははっきり見えます。
出典:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果(二人以上の世帯)」(2026年5月19日公表)
もうひとつ、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」も見てみました。40代の二人以上世帯が持っている金融資産は、平均1,486万円、中央値500万円です。単身世帯では平均859万円、中央値100万円。平均と中央値がこれだけ離れるのは、一部の資産が多い世帯が平均を引き上げているからです。実感に近いのは中央値の方になります。
同じ調査で、老後の生活について「心配である」と答えた40代は、二人以上世帯で85.4%、単身世帯で82.7%でした。その理由として「十分な金融資産がないから」を挙げた人は、それぞれ63.1%、75.7%です。
なお、この調査でいう「金融資産を保有していない」は、銀行口座の残高がゼロという意味ではありません。日常の支払いや引き落としのための預金は、集計から除かれています。
数字が言っているのは「無理だ」ということではない
ここまで並べておいて言うのも何ですが、この数字を「だから40代は諦めた方がいい」と読む必要はないと思っています。
プログラミングスクールには、数万円の低価格帯から数十万円するものまで、本当にたくさんあります。その中で十数万円という金額は、決して高い方ではありません。ただ、だから安いですよね、という話ではないんです。
すでに家のローンがあって、毎月の返済額が決まっている人にとっては、1万円の出費でも痛い。それは家計の感覚として当たり前のことで、その人がだらしないわけでも、計画性がないわけでもありません。
つまり、問題は金額の大小ではないんですよね。その人の家計にどれだけ余裕が残っているか、という話です。そして40代は、その余裕がいちばん薄くなりやすい年代です。ローンを組んで、子供にお金がかかって、収入は頭打ちになっている。さっきの数字は、まさにそういう状態を映しています。
40代で新しいことに踏み出すのをためらう人がいるのは、当然だと思います。むしろ、ためらわない方が不自然かもしれません。
ただ、この数字を知った上で決めるのと、なんとなく不安なまま何年も迷い続けるのとでは、たぶん違います。
横に移る転職と、縦に移る転職
自分の経験からも、40代で別の職種に移ることのハードルの高さは分かります。
私は以前、トラックの運転や重機の運転をしていました。トラックと重機は、外から見るとまったく違う乗り物ですが、実はスキルがかなり共通しています。車体の大きさを体で覚えている感覚、狭い場所での取り回し、周囲との距離のつかみ方。空間認識の使い方が似ているので、片方ができれば、もう片方にも比較的すんなり入れました。
こういう移り方を、私は横の転職だと思っています。持っているものが、そのまま次でも使える移動です。
一方で、トラックや重機からパソコンを使う仕事に移るのは、縦の転職でした。共通しているものが、ほとんどありません。
つまずいたのは、学習に入る前の段階からでした。パソコンの設定や環境構築です。そもそもここまでハードルが高いのかと感じたものです。
そこを越えても、今度は言葉でした。メソッド。プロパティ。デプロイ。引数。配列。リポジトリ。
今までの人生で聞いたことも考えたこともないような言葉が飛び交う世界でした。すごく遠い道のりになりそうだなと圧倒されそうになったのを、今でも覚えています。
本当に1つずつでした。HTML、CSS、JavaScript。近道も抜け道もありません。
「40代の転職は難しい」と言われるとき、その多くは、この縦の移動のことを指しているのだと思います。
縦に移るとき、独りで登り切れるかどうか
縦に移るとき、何が一番きついか。私の場合、技術そのものよりも、続けることの方がきつかった気がします。
今はYouTubeにも無料の教材があります。質の高いものもたくさんあります。ただ、正直なところ、動画だけを見て何ヶ月も独りでモチベーションを保てる人が、どれだけいるでしょうか。分からないところで止まったとき、聞ける相手がいないと、そこで終わってしまうことがあります。
その点で、スクールにはスクールの役割があると思っています。同じ時期に同じ内容をやっている人がいる。質問できるメンターがいる。私が受けたデイトラの場合は、Discordでのやり取りが活発でした。
もうひとつ効いたのが、先に卒業していった人たちの存在です。デイトラはYouTubeでも発信していて、同じような境遇から学び始めて、実際に仕事に就いた人の話が出てきます。自分と近い立場の人が通った道が見えると、「この順番でやればいいのか」という見通しが立ちます。独学で教材を買って独りで進めるのに比べて、再現性を感じやすい部分だと思います。
技術を身につけるだけなら、独学でもできます。ただ、続けるための仕組みを自分で作れるかどうかは、また別の問題です。
13万円を、どう見るか
デイトラのWeb制作コースは13万円ほどです。さきほど書いたとおり、スクールの中では高い方ではありません。それでも、ぽんと出せる金額ではないと思います。
出すか出さないかは、余裕の話に戻ります。今それを出すと生活が回らなくなるなら、無理に出すものではないと思います。
ただ、見方を変えることもできます。4ヶ月集中して取り組んで、その先の仕事につながるのであれば、人生全体の中では大きすぎる出費ではないかもしれない。何かを手に入れるときに、多少の犠牲が必要になる場面は確かにあります。
もちろん、お金を払えば結果が出るという話ではありません。教材を買っただけで終わる人もいます。そこは正直に書いておきます。
デイトラで実際に何をやったのか、料金の内訳、つまずいたところ、どういう人には向かないと感じたかは、デイトラWeb制作コースでフルリモートのコーダーになれた話に詳しく書きました。検討している人は、そちらを読んでから判断してもらった方が確実だと思います。
40代は、決めるための年齢だと思う
40代で動くべきだとも、動かない方がいいとも、私は言えません。家計の状況も、家族の事情も、人によってまったく違うからです。
ただ、40代の家計には貯蓄より借金が多いという構造があって、その中で転職する人が倍に増えていて、年収は下がる方が多い。この事実を知った上で選ぶのと、知らないまま「このままでいいのかな」と何年も思い続けるのとでは、その後の数年の使い方が変わってくる気がします。
私自身、まだ途中です。答えを持っている立場ではありません。
ただ、あのとき決めたから今があるという実感だけは、確かにあります。
参考資料